骨粗しょう症と女性ホルモン
骨粗しょう症は整形外科や内科の病気というイメージがあるかもしれませんが、女性ホルモンが深くかかわっています。
女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)は、女性らしい体をつくったり、排卵をコントロールしたりするホルモンですが、骨の健康にも深く関わっています。
骨は、古い骨を溶かす破骨細胞と新しい骨をつくる骨芽細胞の働きによって、日々新陳代謝を繰り返していることは、ご存じの方も多いでしょう。
エストロゲンには、破骨細胞を減らして骨芽細胞を増やす働きがあります。また、食べ物や日光浴で体内に取り入れたビタミンDを、カルシウム吸収に欠かせない活性型ビタミンD3に変換させるのもエストロゲンです。
つまり、エストロゲンが十分に分泌されていれば、新しい骨がどんどん作られ、骨の健康を保つことができるのです。
グラフからわかるように、女性の場合、エストロゲンの分泌が増える思春期から骨量が増加し、エストロゲンの分泌が減る閉経前後から急激に骨量も減少します。エストロゲンが減ると破骨細胞の寿命が延びてしまうため、骨の新陳代謝のバランスが崩れ、急激に骨量が減少します。
言い換えれば、女性の骨の健康はエストロゲンによって守られているのです。
エストロゲンは少量ながら男性の体内にもあり、男性の骨もまたエストロゲンによって守られています。
女性の骨も男性の骨も守るエストロゲンについて、もう少し詳しくお話ししましょう。
エストロゲンは、エストロン、エストラジオール、エストリオールの3つに分類されます。この中で、もっとも強い作用を持つのがエストラジオールです。エストラジオールの作用は、エストロンの約10倍、エストリオールの約100倍に相当します。
閉経後の女性は、エストロゲンの減少とともにエストラジオールの分泌量も減り、やがて同年代の男性のエストラジオール分泌量より少なくなってしまうのです。
平均して、55歳の頃には男女同じくらいになり、60歳では女性は男性の1/2までエストラジオールの分泌量が減るといわれています。
エストロゲンの欠乏、中でも作用の最も強いエストラジオールの欠乏の影響は、さまざまな臓器に及びます。
その1つが骨量の減少ですが、ほかに、中性脂肪やコレステロールが増える脂質異常症(高脂血症)、動脈硬化や高血圧、糖尿病などの生活習慣病にかかりやすくなったりします。
エストロゲンの作用は、性腺作用(生殖器への作用)と性腺外作用(生殖器以外への作用)に大きく分けられますが、骨粗しょう症や生活習慣病に関係するのは性腺外作用です。
各臓器へのエストロゲンの主な作用
性腺作用
子宮筋 子宮筋の発達など
子宮内膜 子宮内膜の増殖など
子宮頸管 分泌物増加、妊娠時に軟化
膣粘膜 粘膜の増殖促進など
卵管 せん毛運動が活溌になる、分泌物増加など
乳房 乳管の発達など
性腺外作用
中枢神経 情動・行動、抗うつ、脳血流増加など
骨 骨吸収抑制、骨形成促進など
小腸 カルシウム吸収促進
動脈 動脈硬化抑制、血管の緊張低下と収縮抑制
脂質代謝 LDL(悪玉)コレステロール低下、HDL(善玉)コレステロール増加
血液凝固系 血液凝固能促進(血が止まりやすくなる)
腎臓 塩分や水分の再吸収促進など
膵臓 抗糖尿病作用など
若い頃の女性が男性よりも生活習慣病にかかりにくいのは、エストロゲンによって守られているからです。その恩恵がほとんどなくなる閉経後は、女性も生活習慣病予防が重要になります。
骨粗しょう症は男女差の大きい病気です。50歳以上の人の中で、女性の24%に骨粗しょう症がみられますが、男性では4%にすぎません。
男女共通の臓器に起こる病気で、もっとも男女差(性差)が著しい病気が骨粗しょう症なのです。
男性の骨粗しょう症の特徴は、アルコールの影響や肝臓疾患、ステロイド剤の長期投与などが原因で起こる、続発性骨粗しょう症が多いことです。
また、男性が骨粗しょう症になると、女性の3倍骨折しやすく、転倒骨折の予防対策がとても大切になります。
男性の骨粗しょう症はエストロゲンの低下が主原因ではありませんが、前述したとおり男性の体内にもエストロゲンはあり、骨の健康を守る働きをしています。
先天的な病気のためにエストロゲンが働きにくい男性では、骨量が非常に少なく、ちょっとしたことで骨折が起こります。骨折しやすいという症状から、先天的な病気がわかることもあります。
このように、エストロゲンは私たちの体の中で大変重要な働きをしています。大豆製品にはエストロゲンに近い働きをするイソフラボンが多く含まれていますから、女性はもちろん、男性も積極的に摂るとよいでしょう。
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